2015年05月27日

実験の神様

世の中の大発明や大発見につながる実験は、寝食を惜しんで研究や実験に没頭しているにもかかわらず、往々にして大きな壁にぶち当たり産みの苦しみを味わっている。
その壁は厚く、ちょっとやそっとでは突き破ることができない。

歴史上の発明や発見がそうであったように、うっかりミスが突破口になることが多々ある。
魔が差したというのも変な言い方かもしれないが、試薬の量をついうっかり間違えたり、少し違った手順で実験を行ってしまったりすることがある。
そんな時、光明を見出すような現象が生まれることがある。
この現象のわずかな違いを見逃さないで研究や実験をさらに突き進めて行き、大発見や大発明につながったという事例は決して珍しいことではない。
一所懸命ひとつのことに打ち込んでいる人には、実験の神様が手を差しのべるのかもしれない、などと非科学的なことを考えたりする。

私も良くこのような不思議な体験をする。
何か新しい実験を始めるとき、身近にあるものを使って、思いつくままにチャチャッと試し実験を行う。
よほどいい加減でない限り、良い結果を生むことが多く、時には思いがけず大きな感動がもたらされる。
その勢いのまま、実験プログラムに加えるため、子どもたちにより見やすく、より効果を発揮する装置にするためいろいろ改良を加える。
寸法をしっかり出し、材料もちゃんと調えて、最初の実験装置よりはるかにきちんとしたものを作ろうとすると…
うまく行かないのである。
妙な話だが、最初の試し実験には実験の神様が手を差し伸べてくれたからだと思う。
つまり、「その発想は間違っていないよ、そのような手順でうまく行くよ。」と、最初は良い結果が出るように導いてくれているからだと思う。
ただ、「そんなに甘いものではないよ。いつも良い結果を出すためには、原理原則をしっかり抑えなければダメだよ。」という厳しい指導(?)が試し実験の後に必ず入るのである。
基本的な構造は同じでも、よりよくするためにと、あれこれアレンジを加えてしまうのが常である。
改良を加えたつもりが、結果的に改悪になってしまう場合もある。
最終的には数々の実験を通して、原理原則を抑え、安定した装置に仕上がるのだが、そこに行き着くまでは何故ダメなのかと相当悩むことになる。
そして、最後の最後に求めていた実験が再現される。
あきらめずに実験を進めていけるのは、パパッと最初に作った試し実験装置で良い結果が得られたので、必ずできると信念を持てるからだ。

不思議な流れだが、このようなことは「科学」の付録や大人の科学のキットなどを開発するときにも、嫌というほど味わった。
今も夏の科学イベントなどに向けて、新しい実験装置の開発を進めているが、ちょうどこの大きな壁にぶち当たっているところである。
必ず乗り越えられるはずだが、解決の糸口は未だ見つからず…。
実験の神様から出された宿題だと思って、日夜その糸口を見つけるために悪戦苦闘中!
完成の瞬間に味わえるワクワク感を思い浮かべながら、壁と戦っているのである。

※久しぶりにプロフィール用の写真を撮りました。白髪増えたな…と(笑)

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2015年02月16日

素晴らしき哉、出会い

人は一生にどのくらいの人と出会うのだろう。

私は仕事柄、多くの人とお会いする機会に恵まれている。
今年最初の出会いは、早稲田大学の賀詞交換会。
鎌田総長との名刺交換のできる会だ。
列に並んでから40~50分は経った頃、やっと私の順番が回ってきた。
後ろは未だ長蛇の列。
自分がやってきた仕事、今後の目標などを簡潔にまとめてお話した。
総長は、的確に私の話を汲み取って戴き、言葉を返してくださった。
早稲田は私の出身校であり、総長と言葉を交わす緊張感はただならぬものがあった。

新年、1月4日に行った板橋区立教育科学館の「湯本名誉館長のお正月実験ショー」も、ある意味で大勢の人との出会いの場だ。
ロビーを使っての実験なので、50~60人も集まれば満杯である。
このような実験ショーの場合一番気をつけることは、接し方を平等にすることだ。

私は、反応の良い子や、目立つ動きをする人に目が行ってしまい、ついついその人たちに話しかけてしまう癖がある。
遡れば今から40年ほど前、教育実習である女子高に行ったときのこと。
授業を終えて学級日記をチェックしてみると、そこには私への抗議文が赤い字で書かれてあった。
「湯本先生は、授業中に同じような人ばかり見て話している。質問に答える人を指すときもいつも同じような人ばかり当てる。平等に授業を行ってください。」
といった内容だった。
実は私は非常にあがり性で、人前で話すとき自分の話に良く反応してくれる人を探し出し、その人に向けて話すようにすると、落ち着いて話ができるようになるという癖がある。
気をつけてはいるのだが、実験ショーなどに必ずいる「物知り博士」的子どもとのやり取りで、どうしても偏った接し方になることが多い…。
教育科学館の正月イベントでも、「物知り博士」が最善に陣取って
「あっ、それ知っている。」「それはこうだよ。」と応える。
正直、少し黙ってくれるとありがたいとも思うが、持って行き方次第では、場を盛り上げたり、和ませたりするのに一役買ってくれるので、こちらの腕の見せ所でもある。

1月末、小松市の「サイエンスヒルズこまつ:ひととものづくり科学館」で行ったイベントでは、懐かしい再会を果たした。
イベント終了後、参加してくれた親子が控え室に訪ねてきた。
記念に一緒の写真を撮りに来たのかなと思ったら、お母さんが「お久しぶりです」とおっしゃった。
あわてて頭の記憶の引き出しを開けるが何も出てこない。
そのお母さんは、私のうろたえぶりを予測していたかのように、1冊の雑誌を取り出し、中のページを開いて説明してくれた。
その雑誌は「大人の科学マガジン」の創刊号で、「実験村」という本誌の企画に応募し、参加してくれたのだそうだ。
12年ほど前になる。
ページの写真をよく見ると、確かにそこに若き日のお母さんが満面の笑みで登場している。
科学好きが高じて応募してくれたそうで、当時は独身のうら若き乙女。
その後結婚されてお子さんができ、現在は小松市で暮らしているとのこと。
当時、私は「大人の科学マガジン」の総括編集長で、実験村の初代村長でもあった。
第1回目の大実験(アルミ缶を溶かして巨大凹面鏡を作り目玉焼きを作りに挑戦する)に大張りきりだったそうだ。
その村長が「サイエンスヒルズこまつ」で実験ショーをやると知って、これは面白いだろうと、小学生の息子さんと一緒に参加してくれたのだ。感謝感激である。
12年前の出会いがなければ、こんな嬉しい再会もできないわけである。
そして、相手にどのような印象を最初に与えるかが大切だとあらためて感じた。
会ったときの印象が悪ければ、わざわざ足を運んではくれなかっただろう。
今回のお母さんとの再会、息子さんとの初の出会いはどんな出会いだっただろう?
数年後、息子さんと再会が果たせたとしたら最高に嬉しいのだが…。

これからも人と人との出会いを大切にして、心からその出会いを楽しみたいと思う。
少なくてもこちらが楽しめればそのワクワク感は伝わり、出会いの連鎖が繋がってくれるかもしれないから。

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2014年12月09日

地下鉄に乗って 【ロシア出張顛末記・その4】

科学フェアでの活動がすべて終わったときは疲労困憊。
60歳を過ぎた体にはかなりのダメージだ。
ただ、ブースでのお客様の反応が良く、講演もうまく行ったので、精神的には充足感に満ち、肉体疲労を差し引いても十分おつりがくる。
自分自身にご褒美をあげるべく、モスクワの町に繰り出してロシア料理を思う存分堪能したい。
ただ、案内の人がいないので、自分たちで店を探さなくてはならない。
一緒に行った同僚とホテルの周りを探索するが、日本のような食堂的なものが全く見当たらない。
高級レストランは、時々目に入るが値段が恐ろしくて入れない。
ロシアでは、一般庶民は外食はしないようで、経済的余裕のあるセレブっぽい人たちが行くらしい。
だから、料金は日本の3倍くらいするのである。
本当は、目いっぱい自分にご褒美をあげたいのだが、そこはグッとこらえてスーパーでロシアらしい食品を探すことにした。

とは言え、異国の地での買い物は意外と楽しい。
果物や野菜も微妙に違うし、ディスプレイも気のせいか洗練されているように見える。
チーズの種類も豊富で、子どものときTVの「トム&ジェリー」に出てきたような穴あきチーズも売っている。
ローストチキンも半身でドーンと売っているし、缶詰も日本では見かけないものがたくさんある。
結構ワクワクする。
買い物を終えてホテルの部屋でプチ晩餐会。
日本人の私にはどうしても馴染めない味もありつつも、食べものとの未知との遭遇もまた楽しいものである。

このような倹約生活を2日すごした後、モスクワ最後の夜がやってきた。
今日を逃したらモスクワで見たものは、ホテルとその周辺、そしてモスクワ大学のほんの一部のみ。
やっと合流できた現地の担当者が、夜のモスクワを案内してくれることになった。

モスクワと言えば「赤の広場」。
地下鉄に乗るべく大学から7~8分歩く。
駅の向かい側の巨大な建物は、ボリショイサーカスだという。
サーカスの人気ぶりはものすごく、観たくてもなかなか切符が手に入らないそうだ。
「ボリショイサーカスって、テントでやるんじゃないの?」
思わず口から出てしまったが、
「それは大昔の話ですよ。」
と軽くいなされた。

モスクワの地下鉄は、各駅が美術館のような装飾がされていることで有名だ。
ワクワクしながら降りていくと、さすがに歴史を感じさせる芸術的な作りだった。
地下鉄自体は、かなりのスピードで走る。
騒音も日本の地下鉄の比ではない。
事故ったら大惨事だろうな…。そんなことを考えながら停車する駅の様子を楽しんでいると、目的の駅に到着。
「赤の広場」に向かう。
「赤」は、ソビエト連邦時代の社会主義に由来するものと思っていたが、ロシア語では「美しい」という意味もあり、本来は「美しい広場」という意味だそうだ。
広場に集う人の多さにもびっくり。
人をかき分けかき分け進んでいく。
不思議なのは、びっくりするほど人が多いのだが、アジア系の人をほとんど見かけないことだ。
今まで海外出張でいろいろなところへ行ったが、必ず見かけるのがインド人と中国人。
人口が多いから当たり前だと思っていたが、ロシアは違うようである。

「赤の広場」にたどり着いた。
ライトアップされ、本当に美しい広場である。
ガガーリンやスターリンが眠るクレムリンの城壁、レーニンが保存展示されているレーニン廟、国立歴史博物館や聖ワシリイ聖堂。
重厚な歴史的建造物があちこちに普通に建っている。

ロシアという国の奥深さが、モスクワ最後の夜に垣間見ることができた。
不思議の国ロシア。近いうちに再度訪れてみたい国である。

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   ライトアップされた「赤の広場」

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2014年12月05日

七転八倒コロボット的講演 【ロシア出張顛末記・その3】

パントマイム2日目は、午後に講演をはさむスケジュールである。
講演会場は、隣の建物なのだが、広大の敷地の中でのこと、機材を運びながらの移動ではあったが20分近くかかってしまった。

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     講演会場(モスクワ大学)

やっと会場に着くと、前の講演者の講演が佳境に入ったところ。
ロボットに関する講演で、最先端の科学のためか学生さんがほとんどのようだ。
私の講演は、最先端科学ではないので学生さん向きではないだろう。
しかし、それにしても親子の姿がほとんど見えない。
人があまりいないところで講演をするのはとてもつらい。
せめて、20人くらい来てくれれば…。

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     イベントの告知ボード

前の講演が終わりいよいよ私の番である。
準備時間は30分。
準備を始めてすぐ、この講演のために準備した投影資料が機械の故障で使えないことが判明。
何度か海外で講演をした経験から、図解や写真をたくさん組み込み、字幕的な補足説明を加えたものを投影して通訳をフォローしようとしたのである。
それが、全く使えないのである。
頼みの綱であった新しい試みの援護射撃が不発弾になってしまった。
普段ならここで頭が真っ白になるところだが、ロシアに来てからいろいろな経験をしたおかげで、すぐに頭が切り替えられた。
いつもの海外講演のように通訳を介してやればいいのだと。
その方が慣れているのでかえってやりやすいはず。
そう思ったら結構気が楽になった。
このトラブルに気をとられあたふたしていたが、ふと見ると会場ほとんど満席。
ただ予想した親子は少なく、ほとんどが学生さんと一般の方だ。

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     講演会場

最初の実験が、自分も一番大好きな「蓄音機の録音再生実験」で、こちらで使う蓄音器は万全の状態に仕上げてあった。
結果、会場の反応もよく、笑いも取れたのでどんどん乗ってきた。
通訳の人も打ち合わせと違う展開であせったと思うのだが、私のノリに合わせて絶妙に通訳してくれる。
ブースでも紹介した3つの実験をここでも紹介した。
今回は通訳がいるのでパントマイムではなく、的確な解説と開発裏話つきである。
どれも予想以上の反響があった。

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後半は、開発の原点とも言える身近なものを使った実験ショーだ。
その最後は充電式掃除機を利用した有人ホバークラフト。
希望者を募ると多くの人が手を上げてくれた。
中でも入り口近くの立見席にいた女性が、元気に手を上げながら近づいて来る。
その勢いに押され、実験協力者として指名することにした。
女子学生は、サクラでもここまでやらないといった反応ぶりで最後の実験を盛り上げてくれた。
大きな拍手に包まれ、自分でも不思議なくらい心地よい感覚に包まれて講演を終えた。

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     掃除機ホバーは、ロシアでも人気者

終了後、多くの人が前の方に寄ってきて、あの実験はこうしたらどうなるのかとか、実験装置の仕組みを再確認したいとか質問攻めにあった。
小学生のときに北海道で暮らしたという日本語を流暢に話す女子学生は、「連れてきた友達がみな感動していた、本当に良かった」と最高の賛辞をくれた。
多くの人と握手したり記念撮影をしたりして楽しいひと時を過ごした。
今日は店じまい…というところで、終日いろいろな人の講演を撮影していたカメラマンに「今日の講演の中で一番面白かった」と声をかけられた。
講演に参加した人の評価もうれしいが、仕事で参加している人から素直な感想をもらうことは最高の喜びだ。
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2014年11月25日

パントマイムは世界をつなぐ 【ロシア出張顛末記・その2】

ロシアに到着した翌日は、早速、科学フェアの準備の日。

出発まで少し時間があるので、ホテルの周りを散策することにした。
10月でもモスクワの朝は寒い。
温度計はないが、刺すような寒さは氷点下を物語っている。
寒さは苦手だが、異国での寒さは不思議と心地よく感じる。
朝も車の数は多い。トロリーバスが通勤客を乗せて走り去っていく。
トロリーバスは幼い頃に見た光景で懐かしい。
古い技術のように思ってしまうが、大気汚染のことを考えるとよくできたシステムだと思う。

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    トロリーバスの走る風景

ホテルの周りは、あちこちで工事をしている。
ただ、滞在した4日間の間に工事をしている人の姿は見なかった。
巨大な深い穴が開いていたり、小さな穴は上に板が渡され、通行人がその上を通っていたりする。
聞けば、工事をする人が少ないので、ローテンションで工事しているとのこと。
かなり大らかである。

科学フェアの会場はモスクワ大学。
モスクワ大学といえば、日本の東京大学のような位置づけである。
どのようなキャンパスにどんな学生がいるのだろう。

私たちの出展ブースは、会場の中心、図書館の中に設営する。
図書館は堂々とした美しい建物で、その偉容に圧倒される。
大きな通りをはさんだ向かいには、本部の建物がそびえ立っている。
伝統と格式を具現化したような芸術的な建物である。
会期中にあちこち見学しようよ思ったが、モスクワ大学のキャンパスは余りに広大で、ほんの一部を見ただけで終わってしまった。

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    科学フェア本部(モスクワ大学)

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    学研ブースを設営した図書館(モスクワ大学)

図書館の中は、外観とはまた趣の違った美しさと豪華さで驚いた。
壁は天然の大理石で、床は赤御影石が敷き詰められている。
ロシアという国の天然資源の豊富さが伺える建物である。
床のツルツルさ加減は、有人ホバークラフトの実験にもってこいである。
今回は間に入っていただいた方の計らいで、ブースの一部を学研の商品紹介に使わせていただいた。
ロシアという未知の国で、自分たちの科学キットが受け入れられるか、不安半分、期待半分で準備を進める

予定では、1日目ブースでの商品説明、2日目と3日目はブースでの活動と私の講演(45分)を行う予定だった。
講演の内容は、今まで自分が開発してきた科学キットの紹介と、それらを開発する上でのポイントを体感してもらうミニ実験ショーである。
おそらく、参加者は親子が中心になるだろう。
1日で見切れないほどのブースがあるこの広い会場で、見知らぬ日本人の講演を、それも奥まったところにある会場まで、わざわざ足を運んでくれるだろうか?
しかも、告知は会場の冊子と立て看板に少し載っているだけなのだ。
こちらは、不安感満載である。 

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    学研ブースのようす

1日目。ブースでの商品説明。
説明といってもロシア語は全く分からない。
多くのロシア人が日常会話ぐらい話せるような英語もままならない。
通訳の人が付いてくれる予定だったのだが、急用ができたとかで放し飼い状態になった。
こちらの事情は、相手にはわからないし、きっと腹を立てる人もいるだろうと覚悟した。
棚には多くの商品を並べたが、説明するキットは3つに絞った。

まず、興味を持った人が簡単に体験できる「クロスコプターEX」。
手回し発電機で電気を起こし、導線でつながったヘリコプターを空中に浮かすキットである。
発電機やモーターなどポイントとなる部品指しながら、英単語並べ、実験を見せる。
すると多くの人が良い反応を示してくれるので、「Let’s try ?!」と笑顔でキットを差し出すだけ。
つまりパントマイムである。

2つ目は、コロボット。
二足歩行がままならず、すぐに転んでしまうロボット。
このロボットは、機構がほとんど見えているので、ギア、クランク、センサーなどを指差すとほとんどの人が感心して納得の笑顔をくれる。

3つ目は、矢を弓にセットして4連射する江戸時代のからくり人形「弓曳き童子」。
仕組みは複雑なので、産業用ロボットのように繰り返し行う動作に注目してもらった。
興味を持って質問をしてくる人がいたが、私が全く話せないことがわかると笑顔で去って行く。
でもその反応から不快に感じたことは一度もなく、ロシアの人は思いやりがあって優しい人たちばかりだと感じた。

でも中にはどんなに断っても執拗に予定外の実験を迫ってくる人がいた。
棚に飾ってある蓄音機だ。
確かに棚には展示したが、会場がにぎやかで蓄音器のような小さな音を聞かせる実験をするつもりは全くなく、セッティングも不十分な状態だった。
言葉は全く通じないが、気持ちは伝わってくる。
しょうがないなと思いかけたとき、その人はバッグからSPレコード盤を取り出した。
こんな会場に割れやすいSPレコード盤を持ってくるとは考えられない。
そうか!おそらく昨日(準備の日)もここに来て、棚に飾ってある蓄音機を見つけ、自分のレコードを持って来たに違いない。
本来の実験が滞ってしまうが、未来のユーザーさんかもしれないこの人の気持ちに応えることにした。
少し手間取ったが、再生した音を聞くと、親指をまっすぐ上に立て満面の笑みを浮かべて満足そうに去っていった。
多くの人の笑顔に癒されたが、まる1日パントマイムをやるとかなり疲れたことも確かだ。

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